配属に関するより一般的な話は過去の文章を参考にしてください.ここでは配属前に伝えておくべきだなと最近感じたことを書いておきますが,当グループに配属を希望される方は事前にご訪問ください.直接話をすることで得るものは少なくありません.グループの学生はもちろん,物性物理工学研究室内,あるいは,他研究室の学生,あるいは,教員にも話を聞けば,多様な視点からの情報が得られますから,是非ともそうしてください.自分自身でなるべく多くの情報を収集し,噂話に翻弄されることなく,納得のいく選択をしていただきたいと思います.
これは当然のように思われると思いますが,多くの研究室では,大学院生と4年生がテーマを共有していたり,扱う対象は違っても解析方法が共通だったりと,情報共有がなされ,論文を読んでもわからない,しかし,有用な技法などが直接伝達されていきます.これに対し,当グループにおいては,研究テーマは個人別に与えられ,作業内容が人により大きく異なるため一人であらゆることをこなすことが求められます.もちろん,鈴浦が理解している知識は惜しみなく伝達しますけども,基本的には個人個人が必要な技術を習得し,使いこなしていかなければなりません.ですから,自分は先輩,あるいは,後輩の作業する様子を見ているだけとか,ちょっとした手助けをするだけで,データや結果が得られることは決してありません.こちらは,必要なサポートはしますし,結果が出るように強く促しますけども,結果そのものを与えることはしません.結果を自ら導くことで得られる達成感は他では得難いものであり,この研究を一人でまとめるプロセスこそが大学で与えられる最も重要な経験であると考えていますので,その努力を期待します.もちろん,似通ったテーマを選ぶことはりますし,オリジナリティを見出せる自信があるのなら研究室のメンバーと同じテーマに取り組むことを妨げはしません.
どの時間を測るかということにも依存しますが,おおよそ,研究について考え,作業する時間と思ってもらっていいでしょう.個人差があるのは当然ですが,この時間は学生の成績の良し悪しとは相関がないという印象を持っています.つまり,出来が良かろうが悪かろうが,その人なりに時間をかけて努力しているということです.当グループで行うのは理論研究ですから,実験室の利用スケジュールとか,特定の実験器具を使うためその場所に居なければならないというような拘束条件はありません.鈴浦への定期的報告と研究室セミナーなどの行事以外は,例えば,コアタイムのような義務を課すこともありません.大学には用事がある時しか来ないとか,夕方やって来て朝方帰宅する者など,日常の暮らしぶりは十人十色ですけども,現実問題として鈴浦との議論なしでは研究は進みません.ここで注意が必要なのは,議論をするにはそのための題材を用意しなければならないということです.その議論で生じた疑問をまた調べて次の議論を,と結果が収束するまで続きます.議論のさいに教員が教えたことをまとめれば論文が出来上がるなどということはありません.研究がうまくいっているときは楽しくできる反面,行き詰まったときには苦痛な時間を過ごすこととなります.そんなときには,ひとり閉じこもらず周りに相談してみて下さい.少し他人と話をするだけで解決の糸口が見えてくる問題はたくさんあります.困難な問題を一緒に考えてくれる人もいるはずです.時には,問題を避けて通る必要もあるでしょう.そのような作業を繰り返して,正しい道をひとつ見出した後は,結果として,最終的結論を導くために必要なデータは数時間の計算で得られる,ということも有り得ます.
研究テーマの選び方によっても過ごし方は変わります.自分から主体的にテーマを探した場合は,大抵の場合は難しいことが出来ませんので,これまでに考えられたことの無い状況設定をうまく見つけ出すことでオリジナリティを確保し,自分が理解できる範囲の技術を使って計算するということになります.その場合,自分が利用可能な技術で計算のできる状況設定を探すことに一番多くの時間を割くことになるでしょう.他方,こちらから一方的にテーマを与えた場合は,こちらの得意なフィールドである場合が多く,特に,流行してるテーマの場合は前提となる知識が多く要求され,それをこちらの知識伝達によりうまくスキップできたとしても,学生にとっては膨大な作業をこなす必要があります.どのようにテーマを選んだとしても,結果が出るまでにはそれなりの時間をかける必要があるということです.
もちろん,無駄なことに時間をかけてはいけませんし,効率的に作業できるかどうかによって要する時間は大きく変動しますが,その時間の長さより,短期的に設定した作業を確実に完了させられるかどうかが重要です.試験問題を解くとか,単純作業のアルバイトとは異なり,なるべく効率的に簡単なことをこなして作業量を増やすという方針では研究は進みません.特別な能力を有する人を除けば,ある程度の時間をかけないと解決出来ない障害をいくつか乗り越えて,はじめて,一定の解答が得られる問題に取り組むと覚悟してください.
配属されて,どうしてもその研究室に合わないと感じたら周りに相談しましょう.研究室を移動するチャンスがあるということはあまり意識されていないようです.どの時点でも,研究室内では解決しようのない問題が生じ,受け入れ先があれば,制度的には可能です.研究を進めるうちにより適切な教員に指導を受けたほうがいいなどということは有り得ますし,何らかのトラブルに遭遇することもあるかもしれません.ただし,問題のある学生はどこの研究室も受け入れたくありません.単に研究テーマが面白くないというような事前にある程度調査可能なことや,研究室を移動しても同じことが起こりうることなどを問題にしても相手にされないでしょう.
しかし,大学院進学時は別です.希望を出して試験の成績で配属を決めますから,行き先に相談する義務はありません.もちろん,修士課程2年間を過ごす訳ですから,話を聞いてから研究室を移動するメリットがあるかどうか判断すべきでしょう.研究室は狭い世界ですから,研究を進める上で人間関係や研究スタイルは非常に重要な要素となります.配属前には想像もしないことをきっかけに,うまくやっていけなくなるということは有り得ることです.あるいは,研究を進めるうちにほかの研究室に移ったほうが進めやすくなるということもあるでしょう.大学院進学時に所属研究室を替えることは,何も悪いことではなく,鈴浦自身,大学院から卒業研究をした研究室とは違うところに移動した経験があり,修士から博士課程に進んだときも指導教員が変わりました.むしろ,研究室を移ることで多くの人とつながりができるメリットがあると思っています.
ただし,博士進学まで考えていて,研究成果を早く出したいという場合は4年生から継続して同じ研究室にいたほうが有利でしょう.4年生の研究室配属時に,どうしても,迷って決め難いとか,何らかの理由で配属されなかったということがあるなら,大学院から移るという選択肢もあるということを頭の片隅に入れておくべきだと思います.ただし,応用物理学専攻の現状は,研究室を移動する学生はごくわずかです.研究室でそれが推奨されていないせいなのか,学生の気質によるのなのか,その理由はわかりません.同じ研究室に居続けるメリットもありますから,移ったほうが良いとは言い切れませんが,選択肢として残しておいて損はないはずです.
参考までに古い文章も残しておきます.
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