研究室配属について


このサイト自体が研究室配属を考える応用物理の学部生に向けての情報発信を主な目的として作られており, 基本的な情報は他の場所で述べられているはずですので,ここでは,研究室選びにまつわる問いかけに対する鈴浦の私見を述べます.


  • 研究テーマは面白いか?

まずはこの質問が考えるべき課題というのが順当なところですが,この問いかけには深みがあります. 結論から言うと,興味を持つ内容があればそれでいいですが,無理やり何かが面白いと思う必要はないでしょう. 過去の卒業論文タイトルだけを見てその面白さを理解するには研究室配属前の学生の知識では十分でないというのが現実です. それでよしとしているわけではなく,教員はそれを説明する義務がありますから,気になれば,聞いてみる価値はあるでしょう.

大きな目標や夢を提示できる教員は目指すところがはっきりしていますから,それに共感できればついていきやすいと思います. 研究の途中で困難に遭遇しても,夢の実現のためと思えば,やる気を失うことなく乗り越えられるでしょうし, 研究を持続させる大きな牽引力となるに違いありません. また,研究活動の中でテーマを見つけるということ自体が全体の中で大きなウエイトを占めています. 夢や目標があればそれに向かってテーマは見つけやすいですから,その点でも有利でしょう.

それでは,そういう夢を持たないと研究は出来ないのでしょうか?私は必ずしもそうではないと思います. 研究テーマを見つけることはそれがなくても,分野を決めて一定期間調査すれば何が問題かは見えてきますので,比較してより困難ということはないはずです.

研究とは具体的には,夢とは少し離れた,地道な作業の連続です. 大きな問題を,設定を少し変えて単純化するか,複数の小さな問題に分割して,一つずつ解決していくということの繰り返しです. 物性理論で言えば,紙と鉛筆で計算するか,あるいは計算機を用いるかして何らかの結果にたどり着きます. それらを,じっと眺めて予想した,あるいは,新たな法則性を見出せるかどうかよく考え,議論し, その結果から問題を修正し解きなおすという作業を,適当な着地点を見出すまで続けますので, このような作業に向いているかどうかの方が大切なのではないかと思います.

ただし,狭い意味の研究者を目指す場合は,自分が関与する研究テーマの面白さを理解し説明していかねばならないことを意識する必要がありますし, 早い段階からそれを経験する方が良いことは確かです. しかし,それは一生指導教員と同じ道を歩むということでない限り,研究室選びとはリンクさせる必要は無いでしょう. 小さな問題でも解決するとうれしい,ぐらいの感覚があれば,大丈夫だと思います.

もちろん,自分の研究テーマが面白いと思った方がいいということは前提の話です. ここで言いたいのは,実際にはそれはなかなか難しいことで,よくわからなくても研究を楽しむことは出来るということです.


  • 楽か大変か?

これが気になるところだというのは理解できます.一般論を展開するよりは,具体的な活動を述べた方がいいでしょう. 確かなことは,3年生までの生活と比較すれば大変だということです.

4年生であれば前半は卒業研究に向けた基礎固めです. 研究テーマが決まっていれば,具体的な理論手法の勉強ですし,そうでなければ,ある程度一般的な量子力学,電磁気学,統計力学,固体物理学の総合的な学習をすることになります.

例年,週1回,勉強した内容を発表してもらいます. 最終的な目標は明示しますが,毎回,どこまで進むかなんて予定はありません. どこまで理解したか,次はどこを目指すかを確認するのみです. 最初のうちは,確実に理解している内容が如何に少ないかを知らされることとなり, これは自分の経験を踏まえても,学生たちの話を聞いても,厳しい作業です. しかしながら,それをはっきりしてはじめて,基礎が固められ知識を積み上げていくことが出来るようになります.

大学院入試が終わると,後期はテーマを決め研究の具体的作業がスタートします. ここからは教科書的な勉強が通用しません.ある程度,専門的知識が無いと文献も読めませんので, 多くのことを教員や先輩から教えてもらうことになります. 随所に,文献には書かれていない,コツがありますので,日常的な議論でそれを体得していかなければ研究はなかなか進みません. その最初の暗中模索の時期を抜け出せば,自分のペースで結果が出せるようになりますから,研究が楽しめるようになります.

日常の議論以外にも,研究の途中経過を定期的にまとめて報告してもらいます. 大抵はグループメンバー全員に発表することになりますので,基本的なことから初めて, その研究の結果と意味をわかりやすく説明する,プレゼンテーションの練習も兼ねています. これもそれなりに大変な作業かもしれません.

一番大変なのは,本質的な困難に出会った時です. 誰も解決策を持ち合わせていませんから,まさに暗中模索で自分の位置を見失いがちです. これは,研究という仕事の性質上避けられません. 困難の無い問題はすでによく考えられている問題か,全く意味の無い内容であることがほとんどです. このような場合,もちろん,こちらから対策を複数提案しますし,いざとなれば,到達目標を変える勇気も必要です.

以上のようなことを実行すれば必ず卒業・修了できます. これが大変と感じるかどうかは,人それぞれで,時と場合によっても違うと思います. ただ,「楽したい」という方は遠慮してもらった方がお互いのためにいいでしょう.


  • どんな人がいるのか?

研究室配属を考えるに当たって,最も重要視すべきことはこの問題だと私は思います. 上の「楽か大変か?」で述べたように,研究は共同研究者との閉じた世界で行われる仕事ですから, 人間関係は研究の成否を大きく左右します.

それが,学生と指導教員という関係では強者・弱者の関係がはっきりしており,人間関係に不具合が生じたとき,不利益を被るのは学生の方と相場は決まっています. 自由に考えなさいと言ったはずなのに教員の考え方を強要されたり,あれこれしなさいと命令されその結果を報告しても真剣に取り合ってくれない,などということはよく聞く話です.

こういうことが実際にありうるかどうか,まずは,教員と面と向かって話すことである程度想像できるかもしれません. それよりむしろ,実際に教員と接している学生の話を聞くとより多くのことがわかるでしょう. 彼らは自分の未来の姿かもしれないと思って,様子を伺い,楽しそうに見えたら,それもよし, 不吉なものを感じたら,そっと立ち去るということでいいでしょう. 他の研究室に話を聞くのもいいかもしれません. 噂話は,火のないところに・・・ということも一理ありますが,経由した人の主観や思惑により真実とはかけ離れたものであることが少なくありません. 情報の真偽が気になったら,悩むより,自分の目で確認しましょう.

我々のグループでは学生の間でも議論することを日常としています. 自分の殻に閉じこもりたい人はご遠慮願います. 同じ研究室の明楽・浅野両グループメンバーとの交流も持ってください. グループ内で気がかりなことがあれば,両先生に相談してください. 親身に話を聞いてくれるはずです.

ともかく大事なのはコミュニケーションが出来るかということです. それが出来なければ,我々のグループでは研究は出来ないと思った方がいいです. 一方,特定の人と上手く議論が出来なくても,それは自分のせいだけとも限らないということも心のどこかに留めておいてください.


最後にひとこと:
その時その時で,考えられる可能性を網羅しておくことは生きていく中で大切なことです. しかし,その中で最善と思った選択が実現できるとも限りませんし, それがかなったとしてもそれが本当に最善かどうかもわかりません. なるべく広く選択に幅を持たせるのが飛躍へのチャンスを増やすコツだと思います. 柔軟な頭で研究室を選んでください.


参考までに2005年に書いた文章も残しておきます.